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2018-12-12

Topic No.158
術前理学療法は肩関節鏡手術を受ける患者の術後痛と障害の転帰に影響しない:前向き研究

Preoperative physical therapy treatment did not influence postoperative pain and disability outcomes in patients undergoing shoulder arthroscopy: a prospective study
Valencia C, et al. J Pain Res. 2016; 9: 493-502

要約

目的:
術前理学療法(pre-opPT)が筋骨格系手術後の痛みの程度と身体障害に与える影響に関して述べた論文は少ない。今回の前向きコホート研究の目的は、術前理学療法が術後理学療法を必要とする期間に与える影響と、3か月および6か月時点での術後経過、痛みの程度や身体障害への影響を調査することである。

方法/デザイン:
合計で124患者(平均年齢43歳、男性81人女性43人)の、肩関節鏡視手術の術前術後に肩関節痛のある患者が含まれた。鏡視手術の内容は腱板損傷、画像検査結果に基づいて診断された関節包炎、関節唇損傷、肩関節不安定症など待機的に予定された肩関節鏡手術である。腱板損傷に関してはtearの大きさも評価した。患者背景、病歴、痛みの程度(NRS)と妥当性が評価された患者立脚型評価(DASH、PHQ、PCS)を術前と術後3か月、6か月で収集した。術前理学療法は、資格を有するPTの監視下に行われた。

結果:
・術前理学療法群においては、男性が女性より有意に少なかった。
・術前理学療法群に女性が多いことは、術後の転帰に影響を与えていなかった。
・年齢、痛みの程度、身体障害、痛みに関する心理的要因は術前理学療法群間で差はなかった。肩峰下滑液包切除術が術前理学療法群で、より多く行われていた。
・術前理学療法は、術後理学療法の期間や、術後3か月、6か月での痛みの程度や手術結果に影響を及ぼさなかった(ほぼ同様の経過をたどった)。

まとめ:
心疾患や肺疾患に対する外科手術前の術前理学療法の有益性を述べる論文はあるが、心理社会的要因の関与もあると考えられ、今回痛みによる破局的思考などの評価も行ったが、術前理学療法の効果に及ぼす影響は少ないものと考えられた。

コメント

本文中に理学療法の詳細と、患者が術前に肩関節拘縮を有していたかなどの記載はなく、画像所見以外の身体所見には言及していない。本論文では、術前理学療法は有益ではないという結論であったが、筋骨格系手術全てにおいて術前理学療法が無益とはいいがたく、肩関節拘縮を有している場合などは、拘縮除去のための術前理学療法は必須なように思われる。しかしながら研究のコンセプトは興味深く、肩関節以外の領域の定型的な手術についても同様の方法で検証してみる価値はあると思われる。

ホームページ担当委員:太田 英之