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2018-12-10

Topic No.147
CRPSにおける患肢と健肢の間に生じる意図的・非意図的な感覚運動干渉

Intended and unintended (sensory-)motor coupling between the affected and unaffected upper limb in complex regional pain syndrome.
Bank PJ et al. Eur J Pain. 2015 Aug;19(7):1021-34.

要約

背景/目的:
CRPSの運動障害は筋骨格系の構造および機能の変化によるものであると考えられてきた.しかしながら近年では,中枢神経システムの不適切な可塑的変化によって運動障害が起こることが報告されてきている.さらには,CRPSにおける大脳皮質の可塑的変化は両側性に生じることも報告されていることから,CRPSでは両手の協調運動障害が起こりうると考えられている.本研究は,CRPSにおける両手の時間的同期性を明らかにすることを目的した.

対象/方法:
【対象】
30度以上の関節可動域があり,0.5Hz以上のスピードで掌背屈運動をすることが可能なCRPS患者を対象とした.20名のCRPS患者が本研究課題を実施するための条件をクリアした.
【方法】
以下の条件設定で手関節の律動的な掌背屈運動を行った.
1.両手を同相(どちらの手も同じ運動方向に動かす)あるいは逆位相(左右の手を反対方向に動かす)で随意的に動かす.
2.どちらかの片手を随意的に動かす.
3.デバイスで他動的に健肢の掌背屈運動が動かされるのと同時に患肢の随意的な掌背屈運動をする.この時,被験者は健肢の運動を気にせずにメトロノームの音に合わせて患肢の随意的な掌背屈運動をするように指示される.メトロノームのリズムとデバイスで駆動する健肢の掌背屈運動のリズムを一致させた条件と30°だけ位相を不一致させた条件を設定した.
4.メトロノームの音なしの状況で,デバイスで駆動される健肢の掌背屈運動のリズムに合わせて患肢の掌背屈運動をする

結果/考察:
両手を同相に随意的に動かす条件あるいは逆位相に動かす条件において,両手間の位相差の変動誤差が健常者よりも大きかったことから,CRPSでは両手協調運動が破綻していることが示唆された.また,メトロノームのリズムに合わせて患肢の掌背屈運動をする条件において,通常であればメトロノームのリズムとデバイスで動かされる健肢の他動運動のリズムのずらした時に,健肢の他動運動のリズムに干渉されてしまって,患肢の随意的な掌背屈運動がメトロノームのリズムに合わせられなくなるが,CRPS患者の患肢の随意的な掌背屈運動は,健側の他動運動のリズムの干渉は受けなかった.このことから,CRPS患者では両手間の感覚運動ネットワークの連絡に破綻が生じていることが考えられ,このことが両手協調運動を阻害している要因のひとつだと考えられる.
一方で,CRPS患者では,健肢の掌背屈他動運動中に,患肢の随意的な掌背屈運動をする時では,随意的に動かす患肢の掌背屈運動の関節可動域が拡大した.このことから,両手運動を利用したリハビリテーションによって関節可動域の改善が期待できることが示唆された.

コメント

両手運動のリズムという視点では,両手の協調性が破綻しているという結果が得られている.その一方で,関節可動域の大きさに着目すると,健肢を他動的に動かしながら患肢を動かした方がより大きな関節可動域が得られることから,健肢運動を活かしたリハビリテーションが効果的であることを示唆する研究である.しかしながら,ある程度の運動機能が保たれている者が本研究の対象とされているため,今後はより重度な運動障害を有する者での調査が必要であると考える.

ホームページ担当委員:大住 倫弘