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2018-11-26

Topic No.30
TKR後の急性期における運動時痛および安静時痛の予測因子

Predictors of postoperative movement and resting pain following total knee replacement.
Rakel BA, et al. Pain. 2012 [in press].

 

要約

目的:
TKR術後急性期の運動時痛および安静時痛の予測因子となりうる術前の身体的・心理的因子に関して検討した。

方法:
対象はTKRを予定している215例で、TKR実施予定日の1週間前に評価を実施した。評価は、①痛みの強度(NRS)、②皮膚への機械刺激閾値(451mNのvon Fray filamentを使用)、③熱痛覚閾値、④圧痛覚閾値、⑤鎮痛薬の使用量、⑥不安(the State-Trait Anxiety Inventory;STAI )、⑦抑うつ傾向(Geriatric Depress Scale;GDS)、⑧破滅型思考(Pain catastrophizing Scale;PCS)について実施した。
そして、術後2日目に運動時痛(膝関節自動運動時の痛み)および安静時痛の強度を評価し、それらの強度に応じて、運動時痛については軽度、中等度、重度の3群に、安静時痛については無し、軽度、中等度、重度の4群に振り分けて、術前の評価項目について検討した。

結果:
術後の運動時痛が中等度の対象者では、術前の痛みの強度、機械刺激閾値、熱刺激閾値において軽度の対象者を基準としたオッズ比が高値であった。また、重度の対象者では、中等度の対象者で認められた因子に加えて、不安、抑うつ傾向、破滅型思考において軽度の対象者を基準としたオッズ比が有意に高値であった。
一方、術後の安静時痛が中等度の対象者では、各項目において安静時痛が無い対象者を基準としたとオッズ比に有意差を認めず、重度の対象者では、年齢の若さ、抑うつ傾向、不安、破滅型施行、運動時痛、機械刺激閾値において安静時痛が無い対象者を基準としたオッズ比が有意に高値であった。
そこで、これらの因子について、ステップワイズ法にてロジスティック回帰分析を行った結果、運動時痛については術前の運動時痛、機械刺激閾値、熱痛覚閾値、が予測因子になりうることが分かり、術前の運動痛を除くと抑うつ傾向が予測因子となり得ることがわかった。また、術前の運動時痛が重度な対象者ほど抑うつ傾向(GDS)の点数が高いことも分かった。安静時痛については、術前の安静時痛、抑うつ傾向、年齢の若さが予測因子となりうることがわかった。

考察:
今回の結果は、術前の痛み強度が強く、抑うつ傾向にあり、年齢が比較的若い患者では術後の痛みが強くなり得ることを示している。機械刺激や熱刺激に対する痛みの感度は、術後の運動時痛の予測因子となりうるが、安静時痛の予測因子とはなり得ず、これは、運動時痛と安静時痛でメカニズムが異なることを示していると思われる。
早期の手術や術前における積極的な併用療法により前述の予測因子を軽減させることは、術後の疼痛コントロールと機能改善を促すと考えられる。

コメント

術後痛の慢性化を予防するためには、術後急性期の疼痛管理が重要になるため、その予測因子を術前に評価し、把握しておくことは重要と考える。本論文で予測因子となり得るとされた項目は、いずれも比較的容易に評価可能であり、術前評価においては、単に疼痛の程度や質といった評価だけでなく、多面的な評価の実施が重要といえる。

ホームページ担当委員:坂本 淳哉